商圏分析事例【実証】海外自動車ディーラーで販売不振店と販売好調店を比較して見えてきたこと

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海外自動車ディーラーZ社のマーケティングマネージャーは、販売不振のA店の販促をどう展開すべきかに課題を抱えていた。販売不振について2つの仮設――①A店のマネジメントに要因②地理的条件に要因――を立てた。原因を解明すべく商圏分析を実施。エリアの分析を行うことで、原因の把握とともに改善策が見える結果となった。今回は、分析結果でチェックすべき5つの必須項目を実事例に基づいて紹介する。

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なぜ商圏分析が必要なのか

マーケティングマネージャーの課題と仮説

Z社は、全国に約70店舗を展開する海外自動車ディーラーです。価格帯は平均より高め。マーケティングマネージャーの課題は、一台でも多く自動車を売れる仕組みを作ること。そのためには店舗の現状を把握することが課題解決の最優先事項です。全店舗の中でも、A店(東京23区内の店舗)は特に売上が伸び悩んでいました。

A店の販売不振の原因として、マネージャーは下記のいずれかではないかと仮説を立てました。

【マーケティングマネージャーの仮説】
① 販売不振店A店のマネジメント力が不足している
② A店周辺の地理的条件が悪い

課題に対する当社の提案

ご相談を受け、当社ではまず下記のようなご提案をさせていただきました。

今回のケースでは、A店の売上不振の原因を解明することを目的としています。A店のみで分析することも可能ですが、今回は販売不振のA店と販売好調なB店の2店舗を比較することで、地理的な違いがあるのか否かを把握することにしました。

商圏分析でチェックすべき5つの必須項目と掛け合わせ分析

商圏分析でチェックすべき必須項目としては4つあり、さらにその結果を掛け合わせた分析をすることができます。各項目についてのA店とB店の分析結果を紹介していきます。

まずは商圏範囲を決める

分析をする前に、まずは店舗の商圏範囲を決めます。お客様の多くが店舗から車で20分圏内に居住を構えていることを把握していたので、そのように商圏範囲をそれぞれ設定しました。

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分析1.世帯数と住宅所有の有無

まずは、それぞれの商圏内の世帯数割合を見てみます。

  A店エリア B店エリア
一般世帯数 956,968世帯 405,359世帯
一人世帯 471,841世帯 49.3% 117,577世帯 29.0%
  20代単身 104,636世帯 10.9% 21,211世帯 5.2%
  高齢単身 108,844世帯 11.4% 33,937世帯 8.4%
2人世帯 226,697世帯

23.7%

114,816世帯 28.3%
  高齢者夫婦世帯 74,793世帯 7.8% 44,260世帯 10.9%
3人世帯 134,377世帯 14.0% 84,111世帯 20.7%
4人世帯 96,775世帯 10.1% 70,421世帯 17.4%
5人世帯 22,235世帯 2.3% 15,152世帯 3.7%
6人世帯 3,946世帯 0.4% 2,554世帯 0.6%
7人以上世帯 1,097世帯 0.1% 728世帯 0.2%

A店エリアの1人世帯の割合は49.3%。20代単身が10.9%。一方B店は29.0%と5.2%。A店エリアのほうが単身世帯が多いことが分かります。さらに3人世帯と4人世帯も比較。そうするとB店エリアのほうがA店エリアよりも複数世帯の比率が高い。よって、B店エリアの方が家族の世帯が多い地域ではないか、という仮説が浮かびます。

続いて住宅所有については、下記のようなデータが得られました。

  A店エリア B店エリア
一般世帯数 956,968世帯 405,359世帯
住宅に住む一般世帯 946,182世帯 398,174世帯  
持ち家世帯 408,562世帯 43.2% 237,788世帯 59.7%
公営公団公社の借家世帯 49,524世帯 5.2% 24,932世帯 6.3%
民営の借家世帯 449,613世帯 47.5% 119,518世帯 30.0%
給与住宅世帯 25,869世帯 2.7% 12,235世帯 3.1%
間借家世帯 12,613世帯 1.3% 3,800世帯 1.0%

借家はA店のほうが多いですが、持ち家はB店のほうが多いです。

このことから、A店エリアとB店エリアそれぞれ下記の仮説が考えられます。

  A店エリア B店エリア
世帯人数 独身 ファミリー
住宅 借家 持ち家

分析2.年収特性

続いて年収特性です。エリアに居住している世帯の年収と、世帯数に占める割合(商圏内比率)などが分かります。

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A店エリアの中央値が300万~400万円なのに対して、B店エリアでは500万~700万円と比較的高いことが分かります。これまでの分析結果から、さらに下記のような仮説が成り立ちます。

  A店エリア B店エリア
世帯人数 独身 ファミリー
住宅 借家 持ち家
世帯年収 300万~400万円 500万~700万
仮説 若年層の単身者が多く、可処分所得が低い ファミリー世帯が比較的多く、可処分所得が高い

分析3.消費支出特性

消費支出特性は、1世帯当たり年間でどのようなことにどれだけお金を掛けているかが分かる調査結果です。A店エリア、B店エリアそれぞれで、自動車関連にどのくらいお金を掛けているのか、「自動車等関連費」という項目に注目してみます。

消費支出 A店エリア消費額(累計) A店エリア消費額(1世帯あたり) B店エリア消費額(累計) B店エリア消費額(1世帯あたり)
自動車等関係費※ 90,327,906,175 96,994 62,667,287,438 161,239

※自動車購入費以外に、自動車保険や修理、レンタカー、ガソリン、税金などの合計

A店エリアでは年間で10万円未満の支出に対して、B店エリアでは16万円と、約1.6倍の費用支出があることが分かります。つまり、これまでの仮説に沿えば、B店エリアのほうが可処分所得が高いため、自動車に費用を掛けられるエリアだということが裏付けられます。

分析4.自動車関連のウェブ閲覧履歴

4つ目は、自動車関連のウェブ検索履歴。
ウェブ検索履歴は、そのキーワードに関する興味関心の表れと捉えられるので、分析において貴重なデータです。国産車関連のウェブサイト(みどり色)、輸入車関連のウェブサイト(ピンク)が閲覧された場所を地図上にプロットしたものが下記です。

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B店エリアのほうがA店エリアと比較してドットの濃淡で自動車関連の興味が高いことかが分かります。

また、A店エリアでは国産車検索(みどり色のプロット)のほうが多い一方で、B店エリアは輸入車(ピンク色のプロット)のほうが多いことも分かります。
A店エリアでは、B店エリアよりも全体的にプロットがまばらなものの、南側で一部プロットが集中しているエリアがあることも見て取れます。

分析5.年収とウェブ閲覧履歴の掛け合わせ

今回の商圏分析の目的は海外自動車ディーラーの販売不振の原因を探ることなので、「輸入車を閲覧している場所」と、その購買対象となる「世帯年収が700万円以上」の場所を掛け合わせました。それが下記の図です。

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濃い赤が、世帯年収700万円世帯の比率が多く、かつ輸入車のウェブサイト検索が多いエリアであることを示しています。濃い赤のエリアほど、ターゲット顧客が多いと捉えることができます。

これまで仮説を立ててきたように、B店エリアのほうが、A店エリアと比べてみどりや青のエリアは少なく、濃い赤が多い印象があります。ただ、A店エリアにも赤は多く、ポテンシャルは十分にあることがうかがえます。

最終的な考察

以上の商圏分析を踏まえて、改めてマネージャーの仮設に立ち戻ってみましょう。

①販売不振店A店のマネジメント力が不足している
②A店周辺の地理的条件が悪い

商圏分析の結果からは、販売不振の原因を①A店のマネジメント力不足、とは言い切れないでしょう。下記の分析結果をレポートとして提出しました。

“A店は東京の23区内に立地していることもあり、分析前のイメージでは「可処分が低いエリア」とは考えられませんでした。それが商圏分析を実施したところ、単身世帯が多く可処分所得が低いエリアだということが分かりました。
しかし、最後の図版にもあるように、少ないながらもターゲットとなるエリア(赤い部分)が導き出されたので、そこを中心に細かく販促活動を行う、例えば、エリアに合わせてチラシなどのデザインやキャッチコピーなどの訴求内容を変えることで、購買につながる可能性があります。“

実際には、この海外自動車ディーラーがエリアごとのクリエイティブを作るのは現実的ではないかもしれません。しかし、消費者の趣味嗜好が多様化している昨今では、分析から導き出された結果に基づいて、クリエイティブも変えるべきだと、弊社は考えています。

まとめ

このように、商圏分析で店舗周辺エリアの居住者像を浮き彫りにすることで、どのような販促が適切なのかがおのずと見えてきます。なぜその販促は上手くいかなかったのか、効果検証で改善策を議論する上でも、そもそもの前提としてエリアの特性を見える化しておくことは欠かせません。商圏分析で地域性を理解した上で、そのエリアに適した販促をすることこそが、売上アップにつながるといえるでしょう。

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